災害に備える地域活動や集まり

  • 五個荘地区まちづくり協議会が取り組む「防災活動」

     

    9月1日は防災の日。

    みなさんは、なぜ9月1日が防災の日かご存じであろうか。

    五個荘地区では「二百十日の行事」を永年実施している自治会もあるので、よくご存じの方も多いと思うが、改めて調べてみた。

     

    東京消防庁のホームページには、「9月1日は関東大震災が発生した日であるとともに、暦の上では二百十日に当たり、台風シーズンを迎える時期でもあり、また、昭和34(1959)年9月26日の「伊勢湾台風」によって、戦後最大の被害(全半壊・流失家屋15万3,893戸、浸水家屋36万3,611戸、死者4,700人、行方不明401人、傷者3万8,917人)を被ったことが契機となって、地震や風水害等に対する心構え等を育成するため、防災の日が創設されました」と説明されている。

    そして、「昭和57年からは、9月1日の防災の日を含む一週間を防災週間と定め、各関係機関が緊密な協力関係のもとに、防災思想普及のための行事や訓練などを行っています」と説明されている。

    防災週間の去る9月5日(土)の午後、五個荘コミュニティセンターにおいて、五個荘地区まちづくり協議会(以下、まちづくり協議会)主催、五個荘地区住民福祉会議共催の「防災・減災と地域福祉のつどい」(以下、つどい)が、自治会長、五個荘地区住民福祉会議委員、一般参加の方々合わせて98名の参加を得て開催された。

    参加者は「自動検温機」で検温

    例年ならば、まちづくり協議会主催の「五個荘総合防災訓練」が行われる時期であるが、今年度はコロナ禍により中止。

    それでも、災害はいつ発生するかもわからない。

    まちづくり協議会では、訓練を中止する一方、自治会に対して何か支援できないかと考え、

    この日に合わせて「自主防災・防災訓練マニュアル」「避難行動要支援者支援マニュアル」「見守り支援マニュアル」「図上防災訓練『DIG』マニュアル」の4つの自治会向けマニュアルの作成に取り組んできた。

    そして、訓練に代わりこの「つどい」を開催したのである。

    自主防災防災訓練実践マニュアル

    避難行動要支援者支援マニュアル

     

    見守り支援マニュアル

    災害図上訓練DIG

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    つどいでは、まず、まちづくり協議会の小杉会長が開会挨拶として、コロナ禍で様々な事業が中止されるなか、自治会での防災・減災活動が大切であることから、「三密回避」の対策をとりながら今回のつどいを開催したという強い想いを語った。

    開会挨拶をする小杉会長

    そして、その想いのバトンを受けて、ローカリズム・ラボ代表の井岡仁志さんが「地域で備える防災と地域福祉」と題した基調講演を行った。

    井岡さんは奈良県生まれ。33歳で滋賀県朽木村に移住し、高島市社会福祉協議会で長年地域福祉・ボランティアセンター業務を担ってきた。災害時の被災者支援にも多く携わり、その豊富な経験を活かして2017年7月から「ローカリズム・ラボ」を設立し、県内外で地域福祉やボランティア、まちづくり、災害支援に関する講演活動やコンサルティングを行っている。

    井岡さんは、まず、少子高齢社会と人口減少が進行する「縮小ニッポン」と「孤立化」が進む地域社会の現状についてデータをもとに解説。「ひとり暮らし世帯」が33%で、もはや日本の標準世帯となるなか、家庭内養育や介護機能低下と世帯が孤立する現状を指摘した。

    東近江市も例外ではなく、2040年の市の人口ピラミッドの推測では団塊世代が80歳代となり80歳以上の一人暮らしの高齢女性の人口が大幅に増加していくとした。

    そして、人口減少社会を背景に、「ゴミ屋敷」や「8050問題」、「老々介護」など多様な社会福祉問題が発生しており、こうした「社会の脆弱性」によって災害は「社会的に構築される」とした。

    井岡仁志さんの講演の様子

    無人島や大砂漠の真ん中で地震が起こっても災害とはいわない。そこに人の「生活」があり、その生活基盤に何らかの課題=社会の脆弱性があって、それが地震や洪水等により、晒されて、被害が起こる。つまり、日常と災害はつながっているとする。

    ならば、その社会の脆弱性にどんな対策を打つのか。建物の耐震化などのインフラ整備はもちろん必要であるが、人が生活するコミュニティの力=ソフト面にどのような対策を進めていくのかが大切であるとする。つまり、平常時のつながりをどうつくり、どう維持していくのかということが重要になるのである。

    井岡さんは、専門職の支援を受けながら、子どもと一緒に暮らす知的障害のある女性が西日本豪雨災害で避難できず亡くなったことを取りあげたNHKのハートネットTVの動画を紹介した。

    生前、彼女は「まわりがいれくれるから安心」と語っていたが、「まわり」とは彼女を支える専門職であった。また、この災害により倉敷市真備町で亡くなった方の8割は「避難行動要支援者名簿」に登載されていて人であるという。普段の生活に専門職の支援はもちろん必要であるが、それだけではない。一人の地域住民としてつながり合う関係づくりが非常時においては、決定的に重要になるのである。

    井岡さんの基調講演には、そんなメッセージが強く込められていた。

    続いて、五個荘河曲町の自治会長である田中克己さんから河曲町自主防災会の活動の事例報告があった。河曲町は大同川が流れ、愛知川堤防まで数百メートルという、いわば川に囲まれた自治会である。

    五個荘河曲町自治会長 田中克己さんの事例報告の様子

    愛知川や大同川が氾濫すると、たちまち水に浸かってしまう。河曲町では従来から自主防災会を組織していた。そして、組単位での消火訓練、11月には町あげての総合防災訓練を実施するなど、防災・減災の活動に熱心に取り組んでいた。

    しかし、今回のコロナ禍で従来の取り組みが困難になる中、「臨時対応」として、町の防災計画を変更し、緊急時の連絡網の構築や避難行動要支援者の避難支援の制度を確立させた。連絡網や避難支援制度の確立の過程で試行と改善、支援対象者自身の制度の必要性の理解促進と支援者の選定等の取り組みを通したつながりづくりの取り組みを展開している。

    まさに、平時のつながりを強くして、減災につなげていくという河曲町の具体的な取り組み報告であった。

    基調講演と事例報告の後、第2部として、自治会長とまちづくり協議会の役員や住民福祉会議の委員が7つのグループに分かれて、グループ懇談会を行った。限られた時間ではあったが、自治会の防災組織の現状と課題、地域の現状と課題などの情報交換が活発に行われた。

    最後に、全員が大ホールに集合し、参加した自治会長にまちづくり協議会が作成した4つのマニュアルを収録した「防災福祉 推進の手引き」を配布するとともに、小杉会長が、まちづくり協議会の助成による「緊急避難時持ち出しセット」の頒布について紹介し、自治会の各世帯で防災・減災の意識を高めてほしいとした。

    地震や台風は防ぎようがない。しかし被害を減らし、大切な命を守る平時の備えはできる。

    井岡さんが基調講演の時に動画で紹介した、高島市今津町浜分で「やなちゃんカフェ」を開いた女性は「防災も見守りも一緒」と語っていた。

    まちづくり協議会が進める自治会単位での防災活動と地区社協が進める自治会単位での福祉委員会活動は、まさに五個荘地区全体のチイキのチカラを高める車の両輪の取り組みであることを改めて実感した1日であった。

    (報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 奥村 昭)