五個荘金堂町(以下、金堂町)は近江商人発祥の地として知られ、その町並みは、平成10年(1998年)12月25日に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
平成27年(2015年)には、日本遺産「琵琶湖とその水辺景観-祈りと暮らしの水遺産」に認定されるなど、金堂町の歴史と文化、景観を受け継ぎ、さらに磨きをかける取り組みを積み重ねている。
平成7年(1995年)4月に発足した「金堂まちなみ保存会」は、その取り組みの中核を担い、平成19年(2007年)2月には「特定非営利活動法人金堂まちなみ保存会」となり、法人格をもつ団体として「金堂まちなみ保存交流館」の運営を開始したり(平成21年(2009年)4月1日~)、市から「まちなみ相談業務」を受託したりするなど、その活動の幅を広げている。
金堂町の中心部に位置する安福寺。
金堂まちなみ保存会のホームページによると「天台宗寺院。現在は浄土宗。創立、開基共不明。金堂始まりの寺と伝えられている。本尊の阿弥陀如来坐像は慈覚大師の作と伝えられる。」と説明されている。
安福寺は「金堂始まりの寺」であり、金堂町で一番古い寺である。山門はなく、寺の名を記した看板もない。江戸時代末期から住職はいないという。
そして、この安福寺を拠点として活動をしているのが「金堂寿会」(こんどうことぶきかい)である。
金堂寿会は、昭和39年(1964年)に設立された。初代会長は、山村文七郎さん(現自治会長の祖父)である。
山村文七郎さんは、幕末・維新期の大商人・外村宗兵衛の屋敷を、戦前の最盛期には「三中井百貨店」を有する大資本家となった中江富十郎が所有していた屋敷に、池泉回遊式の庭園を創った名庭師である。しばらく空家になっていたこの屋敷は、平成20年(2008年)11月から「金堂まちなみ保存交流館」として活用されている。
昭和39年頃は、日本の高齢化率は6%台の前半であった。昭和37年に「全国老人クラブ連合会」が設立され、昭和38年に「老人福祉法」が制定された。
「老人福祉法」制定の翌年に、金堂町の老人クラブである「金堂寿会」を立ち上げたのである
そして、金堂町自治会が管理していた安福寺を、金堂寿会が管理するようになったのである。
安福寺には住職がいない。昭和41年(1966年)から昭和57年(1982年)くらいまでは、近江八幡市の光善寺の老師が観音講の導師を勤めていた。昭和59年(1984年)からは安福寺の斜め向かいにある「浄栄寺」の住職がお勤めされるようになったという。
金堂寿会の入会資格は、金堂町で60歳以上の方。役員が、満58歳になる住民に入会勧誘をする。年会費は1,000円。ただし、80歳以上は500円である。
現在、男性87名、女性82名の併せて169名の会員がいる。来年満58歳を迎えるのは男性5名、女性6名。男性は全員、女性は2人が入会する予定である。女性の中には、家庭で介護を担っていて、活動するのは難しいために入会を断る方もいるという。
金堂寿会の役員は15名。役員任期は2年である。ただし、三役は別である。2年任期が終了すると男性が三役となり、もう1年間任期を務める。役員の約半数は現役で働いているということである。
その活動は日々営まれ、幅広い。
毎月1日には大城神社の清掃を行い、18日に観音講をお勤めする。
毎日役員が交替で、川の鯉の餌やりと川のゴミ上げを行う。金堂町の美しい町並みには清らかな川が欠かせない。毎日、川を美しく保ち、悠々と泳ぐ鯉の世話をする。観光地である金堂町ならではの活動だ。
また、金堂農水環境保全協議会に協力して「金堂コスモス園」を開催。今年は10月31日に開催した。
さらに芝桜の雑草の草刈り、草の根広場 の清掃や草刈りを行っている。これらの活動は自治会行事とは別のものである。
そして、会員の親睦を図るために、毎年日帰り旅行も実施している。今年はコロナ禍で中止としたので、役員が手分けをして、生活必需品であるゴミ袋を手土産に全会員を訪問した。
今年は、コロナ禍で自治会行事の多くを中止せざるを得ない状況になった。金堂寿会では、何か行事を企画できないかと考え、10月11日(日)に「猪子山北向岩屋観音ハイキング」を実施。19名が参加した。
安福寺に毎月1日と18日に花を供える。花は隣接する「老人憩いの家」の前にバケツを置いておくと、住民が厚意で花を入れてくださるので、これをお供えするという。
1月には安福寺で新年法要を行う。先祖代々のお札を作ってお経をあげてもらう。お札は回向(えこう;お経やお念仏の功徳を、ご先祖さまや亡くなられた方のために「回し向け」ご供養すること。<浄土宗総本山知恩院ホームページより>)として会員に配る。
この時に「おけそく」(丸餅を重ねたもの)を、3月は「草餅」、秋には「いが餅」をお供えする。
そして、傘寿(80歳)、米寿(88歳)、金婚の方は1月に「寿」を祝い、表彰するのである。
一方、お亡くなりになる会員もいる。毎年10名ほどの会員がお亡くなりになるという。お悔みには金堂寿会で香典をお供えし、旗を奉げて故人のご冥福をお祈りする。
金堂寿会は、今年(2020年)で発足して56年となる。実に半世紀以上に亘って会員の健康と幸せを願い活動を続けているのである。
自治会長の山村眞司さんは「以前は、寿会と生活が密着していた」と話す。
今年の「敬老の日」に総務省が発表した日本の高齢化率は28.7%。また東近江市では11月1日時点で26.3%と大きく延びた。平均寿命も昭和40年で男性が67.74歳、女性が72.92歳であったものが令和元年(2019年)で男性が81.41歳、女性が87.45歳と大きく延びた。
社会の姿が変わり、暮らしの姿も変わる。さらに、コロナ禍で「新しい生活様式」が提唱されている。
だからこそ、「これからは憩いの家をもっと活用した活動をしたい」と副自治会長で寿会会長の塚本英雄さんは話す。安福寺の隣に「老人憩いの家」がある。塚本さんは、「詩吟をしたり、囲碁や将棋を指したりすることができれば」と話す。また、耕作しなくなり黒いシートが張られた畑に、「金堂寿会で花を植えてみたい」と話す。
山村さんは、「金堂町自治会の防災活動と金堂寿会は、コロナ禍でも変わらず活動を続けています。金堂寿会は、むしろ『何かせなあかん』と活動を増やそうとしています」と笑って話す。
金堂寿会は、長寿社会における金堂町というコミュニティにおける活動の担い手であるとともに、新たな時代におけるコミュニティづくりの担い手として、これからも活動を重ねていくのである。
(聞き手:小杉 勇・大橋 保治・溝江 麻衣子・奥村 昭)
(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)
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