令和3年(2021)2月6日(土)の13:30~15:00に五個荘コミュニティセンターで「令和2年度五個荘地区 福祉・人権のつどい」が開催された。主催は、五個荘地区社会福祉協議会と五個荘地区人権のまちづくり協議会である。
開会挨拶で、五個荘地区人権のまちづくり協議会の河村栄一会長から、今年度(令和2年度)の地区別懇談会の実施状況について報告があった。今年度は、コロナ禍により懇談会を開催する代替方法として、市から「人権アンケート」の実施が提案され、3自治会が懇談会を実施し、22自治会がアンケートを実施したという結果が報告された。
そして、地区別懇談会は「コロナ禍なのでやらなくてよいのではなく、新たな方法で実施する必要がある」とするとともに、コロナ禍での医療関係者等への誹謗中傷の事例に触れ、「このような人権侵害を起こしてはならない」と話された。
記念講演は、滋賀県教育委員会スクールソーシャルワーカー・スーパーバイザーで社会福祉士の上村文子(かみむら あやこ)さんを講師に迎え、「コロナ禍を頑張る子どもたちの現状と課題~今こそ できる 地域支援~」という演題で行われた。
上村さんは、「今こそ共助を」とし、コロナ禍という社会の困難な時こそ支え合い、助け合いが大切で、子どもに対する温かい「志」が将来に活躍する大人への成長につながっていくこと、長い目でみて将来の日本のありように直結していると話された。
そして、しんどいとき、困難なときこそ人権を考える、人権について学ぶことが必要で、今回、この時期に五個荘地区で「人権のつどい」が開催されるのはとても大切で有意義なことであると話された。
以下、上村さんの講演内容の一部を要約して紹介する。
コロナ禍で子どもたちは休校措置となり、ステイホームを余儀なくされた。子どもたちにとって危険な環境下のステイホームはとてもしんどい。家に居られずSNSで知り合って家出をするような行動もある。一方、保護者もしんどい。雇用状況の悪化により雇用を斬られ、職場との繋がりが断絶され、経済的に困窮状態となる。
今日、子どもを取り巻く環境、子どもの背景には様々なしんどい要因があったが、コロナ禍で、さらに家庭は困窮し、イライラが増加し、精神的に不安定な状態に陥るという悪循環となる。
上村さんは、スクールソーシャルワーカーとしての虐待対応のなかで、構造的、複合的な問題が多いことを実感する。子ども達への「負の連鎖」をどう断ち切るのかが最も大きな課題なのである。
「負の連鎖」を「自己責任」と言い放つではなく、「公助」はもちろん「共助」が「今こそ」大切なのである。
上村さんは、その実践例として、昨年の一斉休校時に実施された彦根市の「訪問型緊急食糧支援(子ども弁当)」を紹介した。学校休校中に、給食センターで余った食材を「フードバンクひこね」に寄付し、その食材を使って店を閉めている飲食店の方々がボランティアとなって調理をして弁当をつくる。そして、市社協と市役所の子育て支援課とスクールソーシャルワーカーの連携のもと、地域の方々の協力のもと子ども達に弁当とマスクを届けて、子どもの様子を確認するという活動である。
新型コロナウイルスの感染予防対策としてマスクをつけて暮らす毎日のなか、「声」がなかなか聞こえにくい。子どもたちには「大きい声で、回数多く、笑顔で」声掛けをすることが大切であるとする。
日々の学校生活にも制限の多い生活を送っている子どもたちに、「本当によく頑張っているね」「応援しているよ」「○○だったね」と声をかけ気にかけてあげることが大切である。
ストレスの高い生活では、子どもも保護者も「イライラ」が共鳴する悪循環に陥りがちになる。しかし、子どもが発する言葉には「サイン」が隠れていて、それに気づくことが大切であるとする。
例えば「どうせ私なんて」という言葉の本音は「私を認めてほしいなあ」という気持ちの裏返しの言葉である。
例えば「うざい」「知らんし」「かまうな!」「イラつくねん!!」という言葉の本音は、自分の話を「しっかり聴いてほしい」という気持ちの裏返しである。
特に、「しんどさ」を抱えている子どもには、家庭環境や発達特性の課題、自己肯定感の低下など様々な要因がある。
そんな子どものぽつりと漏らす言葉に耳を傾ける。「訊く」(たずねる)のではなく「聴く」(耳を傾ける)ことが大切であるとする。
「聴く」ことで子どもは、「自尊感情」~自己に対して肯定的な評価を抱いている状態で、例えば、「生まれてきてよかった」「自分にはできることがある」といった、自分自身を基本的に掛け替えのない価値ある存在とする感情であり、学習意欲の向上や良好な人間関係を気づこうとする源泉となるもの~を高めることができる。
文部科学省の「子ども・若者白書」によると日本人は国際的にみても自己肯定感が低い特徴があるという。平成25年度の内閣府の調査では、「私は自分自身に満足している」と回答したのは「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせて45.8%であったという。また、自分は役に立たないと強く感じると回答したのは同様に47.1%であったという。
コロナ禍で、必要なサインを出す子どもが非常に増えている。「問題行動」をおこすことで手にかけ、声をかけてもらって(叱られることをして)やっと見てもらうという悲しい姿で、自分の存在を確認しようとする子どもがいる。多くの子はいっぱい“かまってほしかった”と訴えるという。ゲーム、スマホ、YouTubeというデジタルの世界が広がり、親子の直接的な関わりが減少する傾向にあるが、本来は「子どもは手にかけ、声をかけて、見てもらう“関わり”を一番望んでいるという。
また、コロナ禍ではソーシャルディスタンスが必要といわれるが、もともと「三密」は子どもたちの世界にとって必要なことばかりである。物理的な距離は離れても心は離れない、離さないことが大切なのだとする。
何よりも、子どもにとって周囲の環境の影響は大きい。上村さんはドロシー・ロー・ノルトさんの『子どもは親の鏡』から17の言葉を紹介された。
・けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる
・とげとげした家庭で育つと、子どもは乱暴になる
・不安な気持ちで育てると、子どもも不安になる
・「かわいそうな子だ」と言って育てると、子どもはみじめな気持ちになる
・子どもを馬鹿にすると、引っ込みじあんな子になる
・叱りつけてばかりいると、子どもは「自分は悪い子なんだ」と思ってしまう
・励ましてあげれば、子どもは、自信を持つようになる
・広い心で接すれば、キレる子にはならない
・褒めてあげれば、子どもは明るい子に育つ
・愛してあげれば、子どもは人を愛することを学ぶ
・認めてあげれば、子どもは自分が好きになる
・見つめてあげれば、子どもは頑張り屋になる
・分かち合うことを教えれば、子どもは正直であることの大切さを知る
・子どもに公平であれば、子どもは正義感のある子に育つ
・優しく、思いやりをもって育てれば、子どもは優しい子に育つ
・守ってあげれば、子どもは強い子に育つ
・和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世の中はいいところだと思えるようになる
子どもは社会の宝だ。子どもの未来の先に日本の将来がある。
子どもは一生懸命成長している。大地に根を張り、天に向かって枝葉を伸ばしていく。その枝葉を伸ばしていくには、根に肥が必要だ。その肥は「声」であるという。
親やその立場に近い人、地域の方々の温かい声が子どもの成長の肥となるのである。
閉会にあたり、五個荘地区社会福祉協議会の深尾浄信会長が、童謡詩人である金子みすゞの「星とたんぽぽ」の「見えぬけれどもあるんだよ 見えぬものでもあるんだよ」の一文を紹介して、目に見えないものの中にこそある「人権」の大切さ、共に生きてある「心」で地域を創っていく大切さを語られた。
参加者は130人。
コロナ禍だからこそ開催された「人権の集い」の意義は大きい。
(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)
【参考】
#滋賀県社会教育委員会提言「困難を抱える家庭・子どもを支える支援について」
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5154873.pdf
#「訪問型家庭教育支援」モデル構築・普及事業
https://www.nionet.jp/lldivision/houmongata/index.html
#「おうちで読書」推進事業
https://www.nionet.jp/lldivision/ouchidedokusho/index.html
#滋賀県子ども青少年局「すまいる あくしょん」
https://www.pref.shiga.lg. jp/kensei/koho/e-shinbun/oshirase/314973.html
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