五個荘伊野部町にある正福寺。
正福寺は、500年あまりの歴史を有し、阿弥陀如来をご本尊とする浄土宗の寺院である。
正福寺の住職は31世の関正見さん。
この正福寺で、平成15年(2003年)から「正福寺サラナ親子教室」を開催している。
「サラナ親子教室」は、平成11年(1999年)から総本山知恩院が提唱し、現在、全国20カ寺(休校中含む)で開催されている子育て支援活動である。
「サラナ」とは、古代インドパーリー語で「やすらぎ」や「よりどころ」を意味する。
インストラクター養成講座を修了した方々によって、寺院の本堂などを活動舞台として乳幼児とお母さんを対象に、「豊かな情操」を育む子育て支援を行っている。
この活動は、平成28年(2015年)5 月には、全国青少年教化協議会より「第40回正力松太郎賞・児童教化功労賞」を受賞した。
令和2年(2020年)11月10日(火)は、「正福寺サラナ親子教室」の「よちよちクラス」(Bクラス)の開催日である。午前9時30分頃から、子どもと一緒にお母さんが正福寺にやってくる。
「おはようございます」とご住職の笑顔に迎えられて、本堂にあがり、手指消毒をしてご本尊に手を合わせる。
本堂でお母さん同士がしばし歓談し、子ども達はおもちゃで遊ぶ。参加したお母さん同士の、それぞれの子どもの様子や家事や育児の様子などの情報交換の場となっている。
この日参加したのは6組の親子。
五個荘をはじめ、能登川や建部、近江八幡市からも参加している。
みんな集まると、ご住職が一人ひとりの子どもの名前を呼んで、出席ファイルにシールを貼って手渡す。
そして、教室の室長の関菊世さんのキーボード伴奏で、みんなで「おめめをつむり てをあわせ のんのんののさま おがみましょう みんながよいこになるように のんのんののさま おがみましょう」と歌を歌う。
ちなみに「ののさま」は仏様のこと。
その後、子どもたちひとりずつに用意された小さな木魚を、子どもたちが可愛く“ぽくぽく”とたたき、ご住職と一緒に全員でご本尊に向かってお勤めをし、「お話し」を聞く。
この日は「子どもはみんな聴いている」の「お話し」。
語り掛けること、語り掛ける「言葉」の大切さが優しく伝わる。(ブログの最後に全文を掲載しています。)
「お話し」が終わると、この日のテーマ活動がスタート。
この日は「運動会ごっこ」である。
関さんが、「1歳代のお子さんでもできそうな運動会にちなんだお遊びをしましょう」と本日のプログラムを説明する。
最初のプログラムは、「お母さんに向かってよーいドン」である。子ども達がお母さんと向かい側に並び、お母さんに向かって駆け出す。そしてお母さんに受け止められてゴールイン。
一生懸命に走る子どもたちの姿が微笑ましい。 ゴールした子どもをお母さんが優しく抱っこする。
2番目のプログラムは「ぶどう狩り競争」である。
ぶどうのイラストが描かれた紙を、スズランテープに洗濯ばさみで吊り下げる。スズランテープの両端をスタッフが持ち、子ども達がぶどうめがけてスタートする。
うまくぶとうが取れたら、お母さんのところに走ってゴールイン。
3番目は、「山越へっちゃら」というプログラム。
斜面台を登り下りしてから滑り台を滑って、タンバリンを“ポン”と叩いてゴール。滑り台が楽しかったのか、タンバリンを叩くのを忘れて、「もう一回」と言わんばかりに斜面台に向かう子どもも。
4番目は、「高く積もうね」というプログラム。
画用紙を巻いたミルク缶を3個積みあげる。大きなミルク缶を積み上げるというのはなかなか難しい。しかし、みんなチャレンジして上手に積みあげる。
最後のプログラムは、「みんなで玉入れ」である。
色とりどりのカラーボールが畳にまかれて、それを拾った子どもたちが、ご住職の頭の上に載せた大きな洗濯かごにいれる。ご住職は頭を動かしながらかごを大きくゆっくりと回す。子ども達は、入れやすい高さになったときにボールを入れる。
かごに全部のボールが入ったら終了。
子どもたちは楽しかったようで、これを2回繰り返す。
本日予定していた運動会プログラムはすべて終了。
最後に、風呂敷を縫い合わせたパラバルーンを大きく膨らませて、子ども達を優しく包み込む。
子ども達は、上に膨らんでいくパラバルーンに手を伸ばす。そして、下りてくるまでに中に入り、ふわっと包み込まれる。みんな笑顔だ。
そして、おやつの時間。
本日のおやつは「さつまいももち」と「さつまいものニョッキスープ」である。
おやつは、運動会ごっこの間に、スタッフ2名(教室OBのお母さん)が調理してくださっている。
おやつの前に、子どもとお母さんたちは手を洗いにいく。その間にテーブルをスクール形式に並べ、配膳をする。
コロナ禍なので、テーブルは囲めないが、ご本尊に向かっておいしくいただく。家では野菜を食べないのに、教室ではいっぱい野菜を食べる子どももいるという。
そんな子どもとお母さんのためにも、今日のおやつを家でも作れるようにと、「連絡ノート」の裏にレシピが印刷してある。
おやつを頂き、「ごちそうさま」をした後はご住職が絵本を読む。
最後は、関さんが次回のお知らせをする。さらに、今回は「運動会ごっこ」であったので、子どもたち一人ひとりに手づくりのメダルを首にかけ、そして、お土産に昨年度「わんぱくクラス」作った手づくりの味噌をお母さんたちに手渡す。
「ののさま」にご挨拶をして、今日の「サラナ親子教室」は終了。
終了後、本堂でご住職や関さんと話をするお母さんの姿も見られる。お二人とも、それぞれお母さんたちの話に、優しく耳を傾け、語りかけている。
関菊世さんにお話を伺った。
関さんは、旧湖東町出身で、旧五個荘町役場で保健師として働いていた。平成12年(2000年)にご住職の関正見さんと結婚。正福寺に来た。(ご住職は平成7年(1995)年に旧五個荘町に転入している。)
旧五個荘町で、育児不安のあるお母さんや発達に課題のあるお子さんを集めた親子教室を立ち上げ、やりだした頃に懐妊し、出産を契機に町役場を退職した。
しかし、退職後、保健師としての知識や経験を活かせないかと考え、子育てをしながら平成15年(2003年)に「正福寺サラナ親子教室」を始めた。
最初は就園までの幼児と、その母親8組でスタートした。
月1回の教室であったが、1歳から3歳まででは子どもの発達段階はずいぶん違う。年齢混合では落ち着いた教室の場づくりが難しくなることが分かり、年齢別に開催することにした。
0歳児の「赤ちゃんクラス」、1歳児の「よちよちクラス」、2歳から3歳の「わんぱくクラス」の3クラスである。
「赤ちゃんクラス」は月1回開催。現在、7組の親子が参加している。
「よちよちクラス」は2クラスある。それぞれ月1回の開催で、現在、14組の親子が参加している。
「わんぱくクラス」は2クラスある。こちらもそれぞれ月1回の開催で、現在、18組の親子が参加している。
合計39組であるが、コロナ禍以前は60組を超えていたという。
それぞれのクラスは月1回で、全クラスを合わせると月5回の教室開催である。
現在、関さんは近江八幡市のクリニックで看護師として働いているので、大忙しだ。
なお、1クラスは10組くらいまでがよいとのことである。15組を超えると教室の場が落ち着かなくなることも多いという。
特に「赤ちゃんクラス」のお母さんは、普段子育てで、家に籠ってしまいがちになるので、教室で他のお母さんと話せる時間を持つことが大切であるという。
教室では、赤ちゃんを預けてお母さんがリラックスして楽しく取り組めるプログラムを実施している。ガーデニングを実施したときは、お母さんたちは大変盛り上がっていたという。また、アロマテラピーの講師を招き、除菌スプレーの作り方の講習をした。
では、お母さんたちはどこで、「サラナ親子教室」のことを知るのだろうか。
関さんは「人が人を呼んでいます」と話す。
教室に参加した経験のあるお母さんが、出産した友人に紹介し、参加されることも多いという。また、あるお母さんは、県外から滋賀県に嫁いで、なじみのない土地で寂しい思いをしながら育児をしていたところ、この教室の話を友人に聞いて参加したという。
子育てをするお母さん同士の、地域を越えたネットワークで、この教室のことを知ることが多いのだ。
教室への参加はお母さんと子どものケースがほとんどだが、お父さんの参加もたまにはあるという。2人目の子どもの出産のため、お母さんに代わってお父さんと子どもが一緒に参加する。
寺という宗教施設で開催される教室に不安を感じて、見学にきたお父さんもいたが、教室の雰囲気や内容を見て納得して帰ったという。
「本堂に入るとほっとします。子どもを叱りながら正福寺にやってきたお母さんも、仏様を前にすると自然と心が落ち着いてきます。お寺で教室を開催する意味は、そこにもあると思うのです」と関さんは話す。
参加費は、1組あたり1回500円。あとはご住職の志である。
関さんが大切にしているのは「連絡ノート」だ。
「連絡ノート」は、お母さんと関さんとのコミュケーションペーパーである。お母さんが書いた「本日の感想」欄を読んで、関さんがコメントを書いて返す。
「ここでお母さんや子どもの様子が分かります。悩みがある様子であれば、直接相談に乗っています」と関さんは話す。
正福寺サラナ親子教室を、ご住職の関正見さんと室長の菊世さんご夫婦の二人三脚で始めて17年余りが経過した。
子育てに奮闘するお母さんたちが「ほっこり」する、五個荘になくてはならない子育て支援の活動であり、「財」(たから)である。
(取材:野々目良一、成田美樹、辻 薫、奥村 昭)
(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)
子どもはみんな聴いている
子ども達は1歳半から2歳半くらいになるといろいろおしゃべりをしてくれるようになるので、言葉でのコミュニケーションがとれるようになります。それまでの時期はなかなか大変ではありますが、全くコミュニケーションがとれないわけではありません。じっと目を見てゆっくり語りかければ聞きわけてくれることがあります。それは、言葉のしゃべれない子ども達もちゃんと親のいうことが理解できているということです。いっぱい聴いた親の言葉が満タンになってつながって、子どもの口からほとばしり始めるのです。
私たちは妊娠中から「胎教」ということで、いろいろ語りかけをしたり音楽を聴かせたりするわけですが、これも子ども達が「聴いている」という意識のもとで行っていることです。実際、聴覚が人間の五感の中で最も早くから働き出し、最も遅くまで働き続けるということが研究で分かっています。
しかし、一方で、また言葉のしゃべれない子ども立ちの頭越しに、大人同士が子どもの「悪口」を言い合っている光景をよく見かけます。まだ分かっていない、とお考えかもしれませんが、どうでしょうか?
このことは看病、介護の現場でも同じことです。意識不明と思われる方でも、ベッドサイドで話しかけて手を握ると涙をこぼされることがあります。「この人は分かっていない、聞こえていない」と思ってしまうと、人間とは水くさいもので、結構失礼なことをしたり言ったりしてしまうものですが、これが本当に相手の人を深く傷つけているようです。私たちはそういうことに「無神経」であってはならないと思います。
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