新堂町の住民が「まるごと」交流する~五個荘新堂町「新堂ふるさとを守る会」

五個荘新堂町(以下、新堂町)は、人口236人、66世帯で高齢化率が約27%の自治会である。

水田が広がる美しい田園地帯であり、この田園の環境を守る活動を担っているのが「新堂ふるさとを守る会」(以下、ふるさとを守る会)である。

ふるさとを守る会が発足したのは平成19年(2007年)4月。代表、副代表、書記、会計の4人で構成されていて、自治会を構成する一つの団体である。

ふるさとを守る会では、「東近江市農村まるごと保全広域協定運営委員会」(以下、運営委員会)からの交付金を活用して、平成20年(2008年)から住民が交流しながら、新堂町の景観と環境保全にかかわる活動を実施している。

この交付金は、農業や農村がもっている国土、水源、自然環境の保全や美しい景観といった「多面的機能」が、農村地域の過疎化、高齢化、混住化などにより低下していることから、その維持・向上を図るための地域の共同活動を支援しようというものである。

ふるさとを守る会が、「ふれあい交流活動」として、まず取り組んだのは水仙とイチゴ苗植えである。

新堂町の向い側にある五個荘山本町のあさひ幼児園から新幹線の高架下まで、田の法面に住民総出で、約3,000個の水仙を植えた。

水仙の球根を植える

沿道に水仙を植える

そして、子ども会と一緒に畑にイチゴ苗を植えた。ふるさとを守る会は、子ども達の植えた苗によいイチゴの実がなるように、イチゴの実をカラスから守るべく、畑に網を張った。

イチゴ摘みの様子

しかし、自然が相手である。

水仙の球根が小動物に堀り返されるなどして、すべての水仙の花を咲かせることは難しかったという。

「これは心残りです」とふるさとを守る会の会長(以下、会長)は話す。

イチゴはカラスに実をとられたりもする。美しく花を咲かせたり、美味しい果実を収穫したりするまでには、手間と苦労を伴う。

さらに、さつま芋植えにも取り組んだ。300株のさつま芋を子どもと親が一緒に植える。

さつま芋の株植え

水遣りは子ども会に頼んでいるが、会長も水遣りをしている。

会長は「子どもたちは、自分の植えた株は大切にします」と話す。

畝はつくっておくが、株を植え、水を遣るのは子どもたちの役割だ。子ども会によるこの芋畑は、10年ほど続いている。

今から10年前の平成22年(2010年)7月20日に発行された「新堂ふるさとを守る会」の広報には、芋の株を植えた2人の子どもの作文が掲載されている。株植えやその後の水遣りの様子が、生き生きと描かれている。

「私の家には、畑はない。でも私の家の近くにはたくさんの畑や田んぼがある。その畑の一つに、ふるさとを守る会でさつまいもの苗植えをした。苗を持って畑にまっすぐに突き刺した。そしたらおっちゃんが『ななめにさすんやで~』と言って、見本を見せてくれた。そんなこと初めて知った私はびっくりした。植え終わった畑は、苗が全部同じ方を向いて、畑に寝ているみたいだった。これから秋までゆっくり寝て、おいしく太ったさつまいもになってくれますように。時々、畑に行って水やりをしよう。自分たちで植えた苗は成長が楽しみだ。きっと最高においしいさつまいもになるだろうな。」

「5月9日日曜日、廃品回収の後、ふるさとを守る会の畑で、さつまいもの苗を植えました。植える前の準備でうねを作って黒いビニールシートをかけておいて下さいました。みんなが苗を三十本ずつ持ってビニールに穴をあけてそこに苗を斜めに入れました。苗がふにゃふにゃで斜めに入れにくく大変難しかったです。みんなが苗を入れてから 大人の人が苗のお直しをして、たっぷり水を何回もジョオロに入れてかけました。その後、雨が続いたのであまり水をやってないけれども、晴れている時はお父さんが夕方3回ほど水やりをしてくれました。私も1回手伝いに行きました。秋が楽しみです。」

そして収穫の秋。

大人も子どもも一緒に芋掘りをする。

さつま芋堀りの様子

さつま芋堀りの様子

収穫したさつま芋は、子どもたちが持ち帰るのはもちろんであるが、運動会の景品にしたときもあった。

最近では、さつま芋を子どもたちが4~5人で1チームとなって、一人暮らしの高齢者宅を訪問し、プレゼントしている。

いわば、子ども会による一人暮らし高齢者への訪問活動である。

この活動は、会長が新堂町の福祉委員をしていたときのアイデアである。

しかし、今年はコロナ禍でもあり、民生委員・児童委員が収穫したさつま芋をお土産に訪問した。

さらに、ふるさとを守る会では、子ども会に呼びかけて、運営委員会の開催する「生き物観察会」にも協力している。

令和元年の観察会の集合写真(東近江市農村まるごと保全広域協定運営委員会ホームページより)

令和元年の観察会の様子(東近江市農村まるごと保全広域協定運営委員会ホームページより)

昨年(令和元年)は、8月1日(木)の午前9時30分からスタート。ふるさとを守る会が準備した網とバケツを持った子どもたちが、川のなかの生物を探す。

この日は、ドンコ、スジエビ、シジミ、ゲンゴロウ、カワムツ、アメリカザリガニ、カワニナ、シオカラトンボ、ドジョウ、サワガニ、シオカラトンボ(ヤゴ)、オイカワなどが見つかった。

見つかった生物の名前は、観察会の指導をする先生が子どもたちに教えてくれる。

朝からとはいえ、最近は酷暑だ。熱中症など子どもたちの体調の急変に備え、市から保健師も来てくれているので安心して観察会ができる。

多様な生物が生息できる、新堂町の美しい環境を守るためにも、自治会全員による河川清掃、高千穂会(老人クラブ)、婦人会の方々が農地の周辺の空き缶拾いや清掃、改良組合の方々が農道の草刈りなどで汗を流す。新堂町の各種団体が互いに協力して、水田と自然環境保全活動に取り組 んでいるのである。

高千穂会によるゴミ拾いの様子

婦人会による清掃の成果

ふるさとを守る会の活動が開始して3年が経過した平成22年(2010年)5月30日には、新堂町が市長より「花と緑の推進賞」を受賞した。

会長は、「新堂町の人口は少ないのですが、皆さん何でも協力してもらえるのでありがたいです。」と話す。

新堂町の小学生は13人、中学生は9人である。

自治会長の森野さんは、「自治会では高齢者向けの事業が多いので、ふるさとを守る会が子ども向けの事業をやってくれています。子どもたちと一緒に芋植えをしていると、子どもの顔と名前が分かります。世代間交流の場になっているのです」と話す。

新堂町のグラウンドにチューリップを約1,000本植えた。

見事に咲いた。

「1000本のチューリップが咲くと見事なもんです」と会長は話す。

ふるさとを守る会は、新堂町の世代を越えた住民の共同作業を通して、「ふるさと」新堂町の美しい風景、景観を守り、住民「まるごと」の交流の場を創り続けているである。

(聞き手:川嶋 重剛・奥村 昭)

(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)