五個荘七里町(以下、七里町)は、72世帯・252人で高齢化率31.3%の町である。
七里町では毎年10月の第2日曜日に、「スポーツフェスティバル」(以下、フェスティバル)を開催している。ほぼすべての世帯が参加する、七里町の一大イベントである。
このフェスティバルはスポーツだけの祭典ではない。防災訓練がプログラムに入っているのである。
なぜ、防災訓練なのか。
七里町も高齢化がすすんできた。競技ばかりでは高齢者はしんどい。しんどいと参加しなくなるものだ。
防災訓練も「訓練に出てきてください」といってもなかなか出てこない。
そこで考えたのが、町のみんなが参加する行事であるフェスティバルに消防訓練を組み込もうというアイデアである。
フェスティバルの会場は「さくら公園」。
その名のとおり、春は満開の桜で彩られる公園である。
昨年は10月13日の日曜日に開催。
午前9時に開会する。
子供会による「選手宣誓」によってスタート。全員でラジオ体操をした後は、「子ども達集まれ!おやつにGO!」(小学生以下)、「それゆけ!あんぱんRUN!」(自由参加)「車輪コロコロ」(自由参加)、「あっちへこっちへ追っかけ玉入れ競争」(各団体・一般)「爆笑!デカパンリレー」(自由参加)、「けつ圧測定」(自由参加)、「綱引き」(各団体・一般)、「親子対抗リレー」(小学生・中学生・PTA)と何とも楽しそうなプログラムが繰り広げられる。
このプログラムに並行してもう一つのプログラムが実施される。それがかまどベンチを使った炊き出し訓練である。
担うのは特設消防団の7名の団員たち。10時頃からスタートする。かまどベンチに芝と薪で火を起こし、大鍋2つにたっぷりとお湯を沸かす。そして、プロパンガスと自治会館からもってきた5升炊きの炊飯器3台でお米を10升炊く。
お米は「百姓倶楽部」が新米を提供してくれる。
百姓倶楽部の正式名称は「農事組合法人七里町百姓倶楽部」である。七里町の20haの田んぼを8軒の農家で共同管理していて、水稲、小麦、大豆を作っている。ちなみにお米は「飾り太鼓」という品名で販売をしている。
沸かしたお湯でレトルトカレーを参加者数分温める。その数は130食。準備するのは150食だそうだ。
七里町では最初は各組で昼食を準備していた。しかし、さくら公園にかまどベンチができたので、それを活用しようということになり、平成26年から全員のお昼を準備することに。最初の2年は豚汁。しかし、豚汁は具材が多く調理時間もかかる。そこで、平成28年からレトルトカレーとなったのだ。
そして、放水訓練がはじまる。放水訓練は市の消防団7名が、次の順番で展開する。
①特設消防団の年間行動計画報告
②七里所有の小型ポンプ車の点検内容(特設)
③七里所有小型ポンプ車の操作手順説明及び注意点(特設・市消防)
④七里町所有小型ポンプ車操作体験(一般)…市消防・特設消防が指導
この訓練は、自治会長が「防火防災訓練実施計画書」を市に提出して実施する訓練でもある。年によってはAEDを使った救命講習も行われれる。
消防団のきびきびした動きを見つめる子どもたち。そして、公園の隣の田んぼに勢いよく放水する。子どもたちも体験する。水圧に驚きながら消防団のサポートで必死にホースを握る子どもたちの姿が微笑ましい。
放水訓練が終了し、参加者全員が百姓倶楽部さんの美味しい新米にかまどベンチで温めたカレーをかけて、カレーライスをいただく。
かまどベンチを使う訓練だけではなく、非常食のカレーを町のみんなで一緒に食べるという非常時の体験をする訓練でもある。
この訓練は楽しく、美味しい。
ちなみに余ったごはんは、皆でカレー皿にいっぱい持って持ち帰る。
米はお米が実り収穫するまで八十八回の手間をかけるから「八」「十」「八」という漢字を組み合わせ「米」という漢字ができたという説があるように、農家の方が大切に育ててくださるからこそ、いただくことのできる貴重な恵みである。決して無駄にはしない。
みんなでカレーを食べた後、午後のプログラム。
全員で「勝ち残りじゃんけん」を行い、「お楽しみ抽選会」を行ってフィナーレ。副自治会長による閉会宣言のあと、万歳三唱で幕を閉じる。
自治会長の平田光男さんは「今の形の方が、住民のみなさんが参加しやすくなりました」と話す。
フェスタ全体を企画運営するのはスポーツ推進員である。2人の体育協力員が前年度の体育協力員とチームになって企画する。
企画を始めるのは五個荘地区スポーツ協会(平成30年4月に「五個荘地区体育協会」を改称)が9月1日に開催するソフトボールフェスティバルが終わってから。七里町でも令和元年から15人のメンバーで「七里アミーゴス」を結成して参戦しているのである。
第37回となるはずであった令和2年度のフェスタはコロナ禍でやむなく中止に。
今年度の体育協力員の高橋俊光さんは「残念です」と話す。
この疫病の予防対策もだんだんと分かってきた。平田さんは「来年は工夫してやれるのではと思っています」と話す。
七里町は現在自治会館を建て替え中。令和3年1月には新しい自治の拠点が完成する。
七里町の記念すべき年に、37回目のフェスタが開催され、七里町のみんなでカレーを食べる日が来るのが楽しみである。
(聞き手:川嶋 重剛・奥村 昭)
(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)
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