「大家族村」のみんなの安全を祈る~五個荘石川町「二百十日祈願祭」

五個荘石川町は18世帯で人口63人の、五個荘地区では世帯数と人口が最も少ない自治会である。組は設けられていない。高齢化率は約27%で五個荘地区の平均に近い。

五個荘石川町では、毎年9月1日に行われる行事がある。

それが「二百十日祈願祭」である。

「二百十日」とは雑節(季節の移り変わりを的確につかむために設けられた特別な暦日)の一つ。

「節分」や「彼岸」、「社日」、「八十八夜」、「土用」などがあり、「二百十日」が立春(2月4日頃)から数えて210日のことで、毎年9月1日となるのである。ただし、閏年は8月31日である。

この頃は稲が開花する時期であるとともに、台風に見舞われることも多い時期である。農家にとっては油断のならない“厄日”として戒めたのである。

台風の被害を受けないよう、二百十日を中心に全国各地で農作物の安全祈願をする祭がみられる。

「太々神楽」舞を奉納し、五穀豊穣を祈願する山形県若宮八幡宮の「若宮八幡宮風祭り」や、浴衣に編傘で歌い踊り、風の災いを踊りで送り出す、富山県八尾町の「おわら風の盆」なども二百十日の祈願祭である。

五個荘石川町の「二百十日祈願祭」では、町の氏神様である大将軍神社に百灯を灯し、御神酒をお供えして住民が災害に遭わないようにお参りする。そして、そのお下がりを頂戴して酒の宴とする。

大将軍神社の二基の百灯

百灯の近景。いつから石川町にあるのかはわからない。中は3段で以前は1段に3つの「かわらけ」に油をいれて灯心(とおしみ)に火をつけて灯した。今は電球である。

酒の宴は、集会所で催される。

町の長老から順番にお神酒を回す。

三宝にお神酒を乗せてお供えする。

白いかわらけでお下がりのお神酒をいただく。

本来は白い陶器の「かわらけ」の盃であったが、今年はコロナ禍で紙コップとなった。

自治会長から災害がないように、そして町の安全と繁栄を願う言葉があり、そのあとは出席者がお神酒をいただきながら、話を弾ませる。お神酒のみでビールや焼酎等の他の飲み物はない。

以前は、「当家の宿」という習わしがあった。これは、その年の当番の家が、宴のご馳走を振舞うというもの。平成10年(1998年)からは、その習わしを止めて、幕の内弁当やオードブルをとるようになった。

「宴」は、町内の各世帯が寄って、各家庭での災害対策の方法を話し合ったり、災害で停電が起きればどのような夜になるのかを体験したりする年に1度の「防災会議」の場となっている。

今年の宴の様子。紙コップでお神酒をいただく。マスクを着用して会話している。

近年、自主防災組織も立ち上げ、町の人々の安全・安心と防災・減災への取り組みを進めている。自主防災組織は、「二百十日祈願祭」の日に立ち上げた。

関東大震災が1923年9月1日に起こったことに因み、9月1日が「防災の日」となったことはよく知られているが、「二百十日祈願祭」は、それより前から営まれているのである。

五個荘石川町の「二百十日祈願祭」がいつから始まったのかは定かでない。町の長老が物心ついたころからあったというので、少なくとも80年以上前から行われている。自治会でも予算化している行事である。

なお、山形県の「若宮八幡宮風祭り」は約160年前から続いているとのことなので、江戸時代後期からである。おそらく、これくらいの時期には始まっていたのかもしれない。

右が集会所で左に大将軍神社がある。

五個荘石川町では、二百十日祈願祭の他にも、地蔵盆や獅子舞、春祭り、おより、伊勢代参といった、町の人々の幸せを祈願する、あるいはしていた行事がある。

例えば「伊勢代参」は、平成22年(2010年)まで続いていた行事である。石川町ならではの方法の「籤引き」で一番籤と二番籤を引いた人が伊勢神宮に日帰りでお参り~代参する。三番籤を引いた人は代参の「補欠」となる。(この籤引きについては『五個荘町史』に詳しく記録されている。)

代参をしている2人の家庭に他の家庭から「留守見舞」として食材が届けられる。その食材を代参している家庭が調理をする。そして、自治会館で、代参から戻った2人から報告を受けて、みんなでその料理を頂くというものである。

こうした年中行事を通して、町の人たちの共同性が強まり、繋がりが深まっていった。

現在は、暮らしも変わり、廃止された行事もあるが、長年に亘って培われてきた繋がりは受け継がれている。

お風呂を借りに行ったり、お裾分けをしあったりする風景が日常であった五個荘石川町。民生委員・児童委員の市田重昭さんは「石川町を『大家族村』といっています」と話す。

 

五個荘石川町で受け継がれる二百十日祈願祭。

二百十日に「大家族」の安全と無事を、幸せを願って集う一日である。

 

(聞き手:木村 光男・溝江 麻衣子・奥村 昭)

(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)

 

 

(参考)令和2年(2020年)の雑節

雑 節 日 付
節分 2月3日(月)
彼岸 春のお彼岸:3月17日(火)~3月23日(月)

秋のお彼岸:9月19日(土)~9月25日(金)

社日 3月16日(月)、9月22日(火)
八十八夜 5月1日(金)
入梅 6月10日(水)
半夏生 7月1日(水)
土用 冬の土用:1月18日(土)~2月3日(月)

春の土用:4月16日(木)~5月4日(月)

夏の土用:7月19日(日)~8月6日(木)

秋の土用:10月20日(火)~11月6日(金)

二百十日 8月31日(月)
二百二十日 9月10日(木)