五個荘河曲町は五個荘地区の北部に位置する、79世帯人口235人、高齢化率が32.4%の自治会である。
愛知川堤防まで600mと迫っていて、町内の中心部を大同川が流れる、川と共に歩んできた町でもある。
水害のリスクも高いので、毎年7月と9月に河川清掃、11月に総合防災訓練、12月に五個荘河曲町と長勝寺町(能登川地区)、神郷町(能登川地区)の3町合同会議を開催している。
コロナ禍で今年の総合防災訓練は中止となったが、自主防災会では課題となっていた緊急時の連絡網を構築するとともに、避難行動要援護者支援制度を確立させた。
五個荘河曲町では、川がある“強味”を活かそうと、約30年前に大同川の環境美化活動と観光振興を兼ねて、護岸沿い全面に梅擬(うめもどき)を植えた。
しかし、タマムシに食い荒らされてしまい頓挫する。
このまま活動を終わるわけにはいかない。護岸全面でなくとも、規模を縮小してでも続けようと“花いっぱい”活動が始まった。
この活動は、五個荘河曲町を“花いっぱい”にしてうるおいのある町にしようとするもの。自治会も予算化した。自治会予算の記録で確認できるのは、五個荘町が合併して東近江市となった翌年の平成18年からであるが、活動はもっと早くから始まっているという。町内あげての活動となった。
農業倉庫前に自治会評議員や住民有志が集まって、プランターに花を植える。
ふれあいサロンでも花を植える。町内の老若男女が集まって一緒に花を植えるのだ。
プランターは河曲神社や河曲町公民館前の「町の中心地」の「一番良い場所」に置かれ、春にはマリーゴールドやベゴニアを、秋から冬にはパンジーやビオラを植え替えて季節の花が町の中心部を彩る。
この活動で大変なのは何といっても水遣りである。
この水遣りを担うのは、自治会評議員の“花いっぱい”担当者。
今年は日根野礼子さん。日根野さんが中心となり、有志のメンバーが手分けして毎日夕方に水遣りをする。
近年の酷暑傾向で、夏の水遣りは特に大変だ。
日根野さんは「順番にさせてもらっているだけです」と笑って話す。
水は町内を流れる大同川から流れ込む水路の恵みを使う。水道代は要らない。
五個荘河曲町という川と共にある町の暮らしに根差した、川の恵みを生かしたまちづくりである。
しかし、冬に咲く花は少ない。
冬は、山川光三さんの葉牡丹である。
山川さんは現在86歳の元「国鉄マン」。退職後に駅構内の売店(kiosk)で働いていた頃、通学する高校生との交流がきっかけとなり、その高校生の通う高校に葉牡丹を贈るようになったことから葉牡丹づくりがはじまり、毎年、葉牡丹を100株植えてくださっている。
葉牡丹は、11月の本念寺報恩講で寺院を彩った後、町内の通学路やバス停を飾り、町の冬の景色を美しく彩る。
今年は「踊り葉牡丹」と「クジャク葉牡丹」の2種類を作ってくださっている。
山川さんは、当時の五個荘町が提唱していた「六心運動」に共感し、社内でのミーティング等の際には、よく「六心運動」を社員に伝えていたという。
しかし、6つを伝えると時間が長くなる。「最初の3つくらいでいつも終わっていました」と話す。
そして、「私は今でも『六心運動』大好き男です」と話す。
ちなみに「六心」は、「はい(素直な心)」「すみません(反省の心)」「ありがとう(感謝の心)」「私がします(奉仕の心)」「どうぞ(互譲の心)」「おかげさまで(謙虚な心)」である。この「六心」で葉牡丹を作り続けている。
山川さんは自治会の評議員ではないが、ボランティアとして入ってくださっている。
自治会長の田中克己さんは「山川さんが自主的に取り組んでくださっているので冬の葉牡丹を見ることができるのです」と話す。
五個荘河曲町では、山川さんに最大の敬意を払い、昨年「感謝状」を贈った。
山川さんから学ぶ。
“利己的”な空気が広がるなか、“利他的”とはどういうことなのかを学ぶ。
「絆を全面的に出すのは難しい時代になっています。だから手軽に関われる取組が必要だと思うのです。元気な定年退職者が増えてくるなか、この方々の参加で花いっぱい活動が続いていくことを願います」と田中さんは話す。
花いっぱい活動が続くこと。それは、山川さんの想いを継承し、花づくりを通して町のつながりを形にしていくことではないだろうか。
(聞き手:川嶋 重剛・奥村 昭)
(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)
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