鐘の音が奏でる国際交流~五個荘石塚町春季例祭

五個荘石塚町の若宮八幡神社では、毎年4月の第2土曜日と日曜日に春季例祭が開催される。

若宮八幡宮神社

1日目の土曜日は春宵宮が、2日目の日曜日は春例祭が行われる。

春宵宮では、太い竹に大鐘を5つ、別の竹に太鼓を1つ結わって担ぎ、午後8時から大鐘と太鼓を叩きながら、国道8号線をわたり中山道を通って石塚町をぐるりと周る。

先導するのは「石塚村」と書かれた大きな高張提灯。

「石塚村」の高張提灯を先頭に

その後に総代、自治会長、太鼓、大鐘が続き合計20名ほどの列となる。

1つ20㎏以上ある大鐘を太く長い竹に5つ吊るす。合計100㎏以上と重い。

竹に吊るした大鐘

竹に結わいつけた太鼓

澄んだ大鐘の音と太鼓の音は、石塚町の春の夜を演出する。

2日目の春例祭は神輿と子ども神輿が出る。大人と子どもを合わせて約50人が参加し、春宵宮とほぼ同じコースを練り歩く。

春宵宮と春例祭の行程

この風情ある伝統的な春宵宮を行うにも、近年では大鐘や太鼓の担ぎ手が少なくなっている。神事を継承する自治会に共通する悩みである。

大鐘の担ぎ手と叩き手合わせると15人が必要だ。太鼓も担ぎ手2人に叩き手1人は必要だ。翌日の神輿にも、もちろん多くの担ぎ手、若者が必要だ。

しかし、なかなか若者は参加してくれない。

そこで、五個荘石塚町では、町内にある企業に着目した。

その企業には寮があり、技能実習生として来日した若い外国人が暮らしている。

当時の自治会長が、その企業の社長に寮で暮らす技能実習生の春季例祭への参加協力をお願いしたところ、快く引き受けてくださったという。

技能実習生にしても、働くだけではなく、日本の伝統文化の祭りに担い手として参加できる貴重な経験となるからだ。

五個荘石塚町からすると春例祭が執り行える、技能実習生にとっては貴重な異文化体験ができるという、まさに「Win-Win」の関係が生まれるのだ。

こうして外国籍の若者が春宵宮と春季例祭の担い手として参加することになった。

今年はコロナ禍で、昨年は雨天により中止となったが、直近では、20歳代の多国籍の若者たちが、春宵宮と春例祭の大鐘と神輿の担ぎ手となった。

全員でお揃いの法被を着て、日本の伝統的な神事に参加する。皆、喜んで参加しているという。

春宵宮で五個荘石塚町を周った後、自治会館で直会(なおらい)が行われ、参加した全員がお神酒やお神饌をいただく。

 

ちなみに直会とは広辞苑では「神事が終わって後、神酒・神饌をおろしていただく酒宴。また、そのおろした神酒・神饌」と説明されている。

御神酒と御神饌

直会の様子

外国籍の若者たちと石塚町の祭禮の役員や参加者が車座で座り、お酒を酌み交わしながら歓談する。共に祭禮を務めた経験は、「石塚町で暮らす仲間」という一体感を強くする。

自治会長の田中さんによると、普段、彼らと道ですれ違ってもきちんと挨拶をしてくれるそうだ。

挨拶を交わし合う風景は、町の空気を和やかにする。

ちなみに、五個荘石塚町に家を建てて暮らしている、3世帯のブラジル人のご家族も自治会員であり、年4回の町内の美化清掃活動にも率先して参加してくださっている。

地域の課題を共生のチャンスに。

五個荘石塚町に「多文化共生」の一つの形が創られつつある。

(聞き手:川嶋 重剛・奥村 昭)

(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 地域支え合い推進員 奥村 昭)