「カチッ、カチッ、ジャー、シャー」
映写機の2段階のスイッチをひねると16㎜フィルムが軽やかな音と共に回り出す。
結神社の本殿の真ん前に設置したスクリーンに「東映」のロゴマークが浮かび上がった。
「コミュニティ食堂てんびんの里みなみ」の「16㎜フィルム映画会」の開演である。
今年6月に結神社を会場に再開した「コミュニティ食堂てんびんの里みなみ」。
「三密」にならない屋外の会場として、3回お世話になっている。
食堂の「運営コア会議」のメンバーは頭を悩ませていた。
9月半ばを過ぎても新型コロナウイルス感染は収束とはいかない様子。
主だった公共施設はウイルス感染予防のため飲食を断られている。
開催日の9月18日の「日の入り」時刻は17時59分。8月よりだいぶん早くなる。
「月1回の食堂といえども、いや、月1回だからこそ開け続けたい」
メンバーの想いは一致した。
ならば、午後5時から日の入りまでの1時間だけ開けよう。子どもたちは、この時間の好きな時に来て、結神社でごはんを食べれられるようにしよう。
開催場所は決まった。
「お楽しみ企画」は何かできないだろうか。
すると五個荘地区社協の深尾会長から「16㎜フィルム映画の上映会をやろう」という声があがった。
深尾会長は、16㎜フィルムを上映する免許を取得していたのだ。
映写機は五個荘コミュニティセンターで、フィルムは八日市図書館で借りることができる。大きなスクリーンが養護老人ホームきぬがさにある。
すべての条件が整った。
何しろ、年代物の映写機とフィルムである。
「ちゃんと映るかな?」清水苑での試写はばっちり。
「金曜日に子ども食堂で『ごんぎつね』と『走れメロス』を上映するから、友だちといっしょにおいで」
スクールガードでいつも子どもを見守る川並町の民生委員・児童委員の奥井さんは、下校する子どもたちに声をかける。
そして当日。
お昼過ぎに降った雨は、幸いにも夕方に止んだ。
拝殿の通路に映写機を、本殿の真ん前にスクリーンを設置した。
準備完了と思ったら、突然の風にスクリーンが倒れる。
しばし、対策会議を開く。
神祭長さんのアイデアで、軽トラックをスクリーンの支えにし「スクリーンカー」に。これで準備完了。
そして、17時。
「みんなは16㎜フィルムって知っている?」映写機を操作する深尾会長が、集まってきた子どもたちに向かって語り始める。
「今日は『走れメロス』と『ごんぎつね』の2本を上映します。携帯電話は片付けて一緒に観ましょう!」
1本目の「走れメロス」の上映が始まる。
コンピューター・グラフィック(CG)やバーチャル・リアリティ(VR)といったデジタル全盛のなかで、昭和のアナログなフィルム映画。
「子どもたちは退屈しないだろうか」という不安が一瞬頭をよぎる。
子どもたちは、一生懸命に観ている。
不安は杞憂に終わる。
懐かしさもあってか、大人も観入っている。
2本目の「ごんぎつね」は、ひじきとコーンの入った「炊き込みごはん」と、地域の方から「子ども食堂に」といただいた冬瓜の入った「豚汁」をいただきながらの鑑賞。
食事は、いつも養護老人ホームきぬがさの職員と利用者の方が一緒に心を込めて作って下さっている。
この日は2回お替りした子どもも。
この日参加した子どもは14名、保護者2名、地区社協役員、民生委員、主任児童委員、自治会の方々、清水苑ときぬがさスタッフ合わせて21名、合計37名が参加。
秋の夕暮れのひと時。子どもと大人が一緒になって地域の神社で、美味しい炊き込みごはんと豚汁をいただきながら懐かしい16㎜フィルム映画を鑑賞する。
「コミュニティ」食堂たるゆえんである。
(報告:社会福祉法人六心会 地域支援担当 奥村 昭)
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